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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1459号 判決

控訴人

間宮精一

菅原恒二郎

代理人

山根篤

外四名

被控訴人

ミノルタカメラ株式会社

代理人

内田修

外五名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの連帯負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も、被控訴人の製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断するもので、その理由は、つぎのとおり附加するほかは、原判決の理由中、第二の二ないし四の部分と同一であるから、その記載をここに引用する(但し、原判決二〇枚目表一行目「甲第三号証」を「甲第二号証」と、同二四枚目表九行目「押動ピン12」を「押動ピン7」とそれぞれ訂正する。)。

二成立に争いのない乙第一号証の三(大正一三年九月一六日特許局図書館受入れの米国特許第七二〇、五八六号明細書)によれば、一眼レフレックスカメラにおいて、本件発明と同一の目的、すなわち、「常時絞りを全開せしめて像を明瞭ならしめ、撮影時シャッターの作動にさいし、自動的に予め定めた絞り度に絞る」目的(本件発明がこの目的をもつことは、本件発明の明細書の記載に徴し、明らかである。)をもつて、

絞り度調整部材(腕24)に止子(階段26)を設け、絞り羽根開閉部材(リング7)(の腕27)を該止子に衝合するようにし、開閉部材にシャッターの起動杆(レバー23)に関連する作動部材(コード9)を係合し、常時絞りを全開状態に保たしめ、シャッターの作動にさいし、シャッターが開き始めざる期間中に作動部材を駆動し、開閉部材(の腕)が止子に衝合するまでこれをともに回動せしめて予め定めた絞り度に絞るように絞り作動装置

の技術思想が、本件特許出願以前から公知であつたことが明らかである。

したがつて、本件発明が、右公知技術が存在するにかかわらず新規性ありとして特許されたゆえんのものは、本件発明が右公知技術と同一の技術思想を有する点にあるのでないことは、特許制度の建前上当然のことであつて、本件発明は、公知技術と同一の目的を、公知技術にはみられない新規な構成により達成した点に、特許性を認められたものと解するほかはない。

そして、本件発明の構成をその「特許請求の範囲」の記載にもとづいて考察するならば、本件発明は、基本的には前記公知技術の採用する技術思想を用いながら、その具体的構造において、各部材の形状および部材相互の関係に一定の限定を加えたものであことが理解される。すなわち、本件発明は、前記公知の技術思想における絞り度調整部材として「絞り度調整環」を、絞り羽根開閉部材として「絞り羽根開閉板」を、また、作動部材として「作動環」をそれぞれ採択し、作動部材の駆動方法として、シャッターの起動杆による「押進」の方法を採用した点に特徴を有する。詳言すれば、本件特許発明は、絞り度調整環および作動環を、いずれもカメラ鏡胴の周囲において鏡胴と同心的に回動する環状体とし、したがつて、この作動環と係合して共に回動し絞り度調整環の止子に衝合する開閉板も同様に鏡胴と同心的に回動する環状の板体とし、かつ、シャッターの起動杆と作動環との「関連」の具体的手段として、シャッターの作動にさいし起動杆が作動環を「押進」するという最も単純かつ合理的な機構に特定することによつて、右各部材からなる自動絞り装置をカメラ鏡胴部にコンパクトに纏めたものであつて、前掲乙第一号証の三によつて認められるように、前記公知技術が、当時一般的であつた大型の蛇腹式またはボックス式カメラに適用される装置であつたのに対し、本件発明は、その出願当時におけるカメラの小型軽量化の一般的傾向(このことは周知の事実である。)を前提として、そのようなカメラにも適合しうるコンパクトな自動絞り装置として発明され特許されたものと認めるのが相当である(このような、小型軽量のカメラに適した絞り装置の構造としての本件発明の作用効果については、明細書に格別の記載はないが、前記公知技術の公開当時と比較した場合の本件特許出願当時におけるカメラの小型軽量化という当業者の技術常識を前提として明細書を読むならば、本件発明が右のような作用効果をもつものであることは、当業者にとり十分理解し感得しうるところというべきである。)。

したがつて、右のような特定の構造の部材を持たない絞り作動装置は、たとえ基本的な技術思想において本件特許発明と共通するものがあつても(そのような基本的な技術思想自体は、すでに公知技術に開示されたところであつて)、本件発明の技術的範囲に属するものではない。

ところで、被控訴人の製品において、本件特許発明の作動環に相当する部材は弓状レバーであり、開閉板に相当する部材は中介レバーであり、また起動杆に相当する部材は進退レバーであると解されるが、弓状レバーおよび中介レバーが、いずれも鏡胴の周囲に鏡胴と同心的に回動する環状体でないことは明らかであり、また、シャッターの作動にさいし進退レバーが弓状レバーを押進するものでないことも明らかであるから、被控訴人の製品は、すでにこの点において本件発明の必須の要件たる構造を欠くのである。また、本件発明の起動杆がシャッターの作動にさいし作動環を「押進」するものであるから、「シャッターの作動にさいしシャッターが開き始めざる期間中に作動環を押進し、開閉板が止子に衝合するまでこれをともに回動せしめて予め定めた絞り度に絞」つたのち、なお起動杆を所定の位置まで押動してシャッターを開放せしめるためには、起動杆により押進せしめられる作動環も、起動杆がシャッターを開放せしめるに足る行程端まで起動杆とともに移動することが必要になるのであつて、この意味で、本件「特許請求の範囲」における「係合」は、「押進」との関係において原判決の説示するとおりの限定的な意味に解釈せざるをえないのである(起動杆が作動環を押進し、開閉板が止子に衝合して停止したのちは、この押進関係が解除されるような構造も考えられないわけではないが、そのような特殊な構造を採用することにより格別の利点が生ずるものとは思われず、また、明細書中にそのような特殊の構造の採用を示唆する記載は何もないから、かかる構造は本件発明の解釈上考慮する必要はない。)。そして、被控訴人の製品が、右のような意味における「係合」の構造を有しないことは、原判決の説示するとおりである。

三よつて、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(杉山克彦 土肥原光圀 楠賢二)

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